国立台湾大学医学院附設医院癌医中心医院(台湾大学病院がんセンター)の鄭安理(Ann-Lii Cheng)院長は、11月末にシンガポールで開催された欧州臨床腫瘍学会(EUROPEAN SOCIETY FOR MEDICAL ONCOLOGY)アジア大会において、進行肝細胞癌の治療に関する大きな成果を発表した。この発表は、海外の専門家や学者から多くの反響を巻き起こした。当日の会場は満員で、座席に座れなかった傍聴者は外から講演を聴講するほどの盛況ぶりだった。
肝臓がんは世界的にみられる悪性腫瘍の一つで、特に台湾、中国大陸、日本などアジア地域での罹患率が高いといわれている。台湾においては、衛生福利部(日本の厚生労働省に類似)国民健康署による2016年がん登録レポートによると、部位別の肝臓癌罹患率が、男性は2番目に多く、女性は5番目に多かった。また死亡数はいずれも2番目に多かった。同年に、肝臓がんと診断された患者は1万人を超え、8,000人以上が肝臓ガンで死亡したことがわかっている。
台湾では、肝臓がん患者の3分の1が、外科手術や放射線治療などの局所療法ができず、全身化学療法薬、ソラフェニブ(Sorafenib)を用いた全身化学療法が行われている。しかしソラフェニブは、副作用が強く、がん細胞に対する特異性が低いことがボトルネックとなっている。
鄭安理院長によると、ある臨床研究では、PD-L1阻害剤と抗血管新生剤の併用療法が効果的な免疫療法を生み出すと報告されている。切除不能な肝臓がん患者の全生存期間(Overall survival、OS)と無増悪生存期間(progression-free survival、PFS)を延長することが期待されている。現段階、患者全体の生存期間の中央値(median survival time)がまだ出ていないものの、服用者の半数以上が生存していることが確認されているという。
免疫療法が肝臓がん末期の患者の第一選択薬となったのは初めて。副作用が低いため、米医療機器認証のFDA(米国食品医薬品局)の認可が取得できれば、国際社会において肝臓がんの治療のために新たな一ページを切り開くことができると共に、多くの患者の生存期間を延長できる見込み。
鄭安理院長は、「台湾の肝臓に関する研究成果は、国際的に高く評価されてきた。自分は『巨人の肩』に立ち、台湾における肝臓病研究の権威、宋瑞樓氏や陳定信氏などが築いた基礎研究をもとに、肝臓がん研究を行ってきた。台湾には優れた学術環境と医療技術があるおかげで、台湾が国際的に「一目置かれる」存在までになった。台湾がどこにあるかは知らなくても、台湾と聞けばみな尊敬のまなざしを送ってきた」と喜んだ。
先ごろ海外で行われた国際会議では、各国から1名の代表者が参加していたにもかかわらず、唯一台湾からは2名の代表者の参加が許可されていた。出席者もこの件について、昨今の台湾の目覚ましい功績から当然のことと受け止められていたという。また、台湾が「C型肝炎撲滅」のために、政府や医療関係者が一丸となって、市民の負担を軽減させるために大量の経費を投入していることについては、海外の多くの専門家が驚きの声を寄せている。このことは、台湾の誇りにもなっており、市民の健康を第一に考えていることの表れともいえる。